放送作家の文章術⑲〝6割の出来で構わない〟と考える

放送作家の文章術⑲〝6割の出来で構わない〟と考える

アウトラインが出来たら、いよいよ書き始めましょう。いつもよりもはるかにスムーズに、文章が書けるはずです。

それでも書き始めることができない、そういう人は、最初から完璧な文章を書こうとしていないでしょうか。

小説家の村上春樹さんは、デビュー作『風の歌を聴け』(講談社文庫)の冒頭にこう書いています。

完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。

村上さんをして、そういわしめるわけですから、私たちが完璧な文章を目指す必要はありません。

もちろん読者に伝わる、よりよい文章を目指すことは必要でしょう。

でも最初から、100点満点の文章を書こうとしなくてもいいのです。

いっそのこと、最初は「6割の出来でいい」と考えて、書き始めてみてはいかがでしょう。

あとでしっかり直す、そう考えるだけで書き始めるためのハードルが、かなり下がるのではないでしょうか。

そういうと「ひどい文章になってしまう」と、心配するかもしれません。

しかし、パソコンのワープロソフトや、エディタで文章を書いているのであれば、いまやいくらでもあとで書き直すことが出来る時代です。

私は20代でワープロ専用機、30代でパソコンのワープロソフトで、原稿を書くようになりました。

もしかしたら、紙の原稿用紙にナレーション原稿などを書いていた、最後の世代かもしれません。

その当時は、文言を直したり、構成を入れ替えようと、消しゴムで何度も書き直しているうちに、紙が薄くなって、しまいには破れたりしたものです。

しかし今や、文言の修正も実に簡単。構成の入れ替えも、ブロックごとカット&ペーストで一瞬にしてできます。

ですから最初の原稿は、6割の出来でいい。そう考えて書き始めてみましょう。

うまいたとえが見つからないときなどは、「例えるなら****のようなものだ」などとしておいて、後で考えても良いのです。