放送作家の文章術㉔〝習慣〟が文章を上達させる

放送作家の文章術㉔〝習慣〟が文章を上達させる

言い訳を考える習慣をやめる!

 なかなか書き出せない。いつまでもグズグズして、次第に焦りが募り始める。私がそうでした。

でもそうやって、焦燥感に苛まわれている時間ほど、何も生み出さない無駄な時間はありません。

 とにかく書き出さなければ始まらない。逆に言えば、書き出せば始まるのです。

それがわかっていながら、書き出せない理由はどこにあるのでしょう。それはついこんな「言い訳」をして、書き出さない習慣があるからです。

言い訳あるある①「まとまった時間がない」

人は、何かと書けない理由をつけて、書き出しを遅らせてしまうものです。

ただし、その「書けない理由」の多くは言い訳に過ぎません。

代表的な言い訳の一つが「まとまった時間がない」です。

 私の友人の放送作家、Aさんは「いつか小説を出版したい」が口癖で構想もできているといいます。

しかし彼が、原稿を完成させたといった話は全く聞きません。

久しぶりに忘年会で顔を合わせたとき、「小説のほうはどうですか」とたずねてみました。

すると「この正月休みはまとまった時間が取れる。そこで一気に書きためる」といいます。

 明けて新年、再び顔を合わせたときのこと。あらためて小説の進行具合を聞いたところ「いや、今年は箱根駅伝がやけに面白かったので、つい見いっちゃって……」。

結局、正月休みには一行も書かなかったといいます。

 そういうものです。

休みの日にまとめて書こうと思っても、そういうときに限って部屋が掃除したくなったり、普段はサボっているウォーキングを再開したくなったり、駅伝や高校野球の中継に見入ったりするものです。

 「まとまった時間がとれない」。

これは言い訳に過ぎません。書くための時間は、毎日の睡眠時間や食事時間と同様、24時間のどこかに、かならず「とっておく」ものです。

 書こうと決めたなら、一ヶ月なら一ヶ月間、毎日3時間程度を「執筆時間」と決めてスケジューリングして、きちんと手帳に書いておきましょう。

平日仕事をしている人なら、朝2時間早起きして執筆時間にあてる。あるいは夜の8時から11時でもよいです。

また毎週土曜日の午前中は必ず執筆時間にあてると決めます。

それを手帳に書いておくのです。

不意の誘いを受けても、手帳を開いて「その時間は先約がある」といって断れます。

手帳に書いてスケジューリングすることは、自分との約束です。

約束は、相手が他人であろうと、自分であろうと必ず守るようにしてください。

言い訳あるある②「気分が乗らない」

 どうも気分が乗らない。これは私が以前、書かない理由としてよく挙げていたものです。

そういうときは「気乗りしないまま書いてみても、つまらないものを書いてしまうのではないか」と不安な気分になり、ワープロソフトを起動する気になれませんでした。

しかし、待っていても〝永遠に「気分が乗る」ことはない〟ことに気がつきました。

結局のところ、気分は書いているうちに、乗ってくるものなのです。

音楽評論家のアーネスト・ニューマンはこういっています。

「偉大な作曲家たちは、意欲が湧いたから作曲に取り組んだわけではない。取り組んだので意欲が湧いたのだ」。

気分が乗らなくても、まさに書くことでアイデアは、降りてくるのです。

言い訳あるある3「もう少し、材料を集めないと」

この本の○ページで「材料=情報をしっかり集める」ことの大切さについて書きました。

材料なしに書き始めて、途中で行き詰まってしまう人が多いからです。

その逆に、ただひたすら資料を集め続けて、いつまでたっても書き始めない人もいます。

そうした人の多くが、いわゆる完璧主義者。完璧に準備をしてからでないと書いてはいけない、と思い込んでいます。

しかし、前にも書いたように、現代は「情報洪水」の時代、集めようと思えば、いくらでも集まって、キリがありません。

 たとえば本を書くとき。必ず同じようなジャンルの本、いわゆる類書に目を通しますが、類書を集め過ぎるのは危険です。

なぜなら類書を読み過ぎると、いざ自分の意見を書こうとするとき「そういえば、この意見はあの本にも書いてあったな。パクリと思われるかも……」などと余計なことを考えて、書けなくなってしまうことがあります。

 参考資料は、ほどほどにしておいたほうが良いようです。

準備万端になることなど、決してありません。書き出さなければ、永遠に始まらないのです。

 むしろ、書き出してみて初めて「ここでもう少し、意見を補足する情報が欲しい」「こういう材料を入れこめば、より具体的になる」などと「本当に必要な情報」がわかることが、多々あります。