コラム「書くのが苦手」な理由とは?
- 2020.03.28
- 放送作家の文章術
書くことが苦手な人の様々なパターン
「書くことが苦手だ」と考えている人に聞いてみると、苦手な理由がいろいろと浮かび上がってきます。
人はなぜ、書くことに苦手意識を持っているのでしょうか?
理由①「何を書いていいか、わからない!」
もっとも多いのは「何を書いていいか、わからない」といったパターンです。
たとえば「読書感想文」を書くにしても、本を読んではみたけれど、とくに感想がない。
テーマを与えられ、それについて書けと言われても、書くことが何も頭に浮かばない。
この「何を書いていいか、わからない」タイプの中には、無理やり書き始めたものの、すぐに書くべきことがなくなってしまい「これ以上、何を書いていいか、わからなくなってしまう」人も含みます。
理由②「考えを〝文章化〟できない!」
次に多いのが「考えをどう文章にすればいいか、わからない」といったパターンです。
そういう人は、書くべきことが漠然と頭にはあります。ところが考えがまとまらない。つまり頭の中の考えを、文章化できないといいます。
頭の中がごちゃごちゃで整理できないため、どう書いていいのかわからない。そう訴える人も、同じカテゴリーといえるでしょう。
理由③「メンタルな理由で書けない!」
メンタルな理由をあげる人もいます。
人に読ませる文章を書く、そう思っただけで萎縮してしまい、なかなか書き始められない。
文章がわかりづらいと指摘されて以来、自信がなくなった。
もともと書くことに苦手意識がある、といったものです。
苦手意識を持つ人の中には、小学校での作文の授業がトラウマになった人もいました。
「今から三十分で、原稿用紙に遠足の感想を書くように!」
先生にそう言われて鉛筆を握るものの、何を書いていいのかわからない。そんな中、誰かがカリカリといった音を立てて、鉛筆を走らせ始める。
やがて、そのカリカリが協和音となり、教室中を包んでいく。だけど、やはり書くことがないので、焦りだけが募ってくる……。
そんな経験をした人も、多いのではないでしょうか。
こうした苦手意識を持つ人の多くは、どれだけ期限までゆとりがあったとしても、ぎりぎりまで手をつけようとしません。
「ああ、そろそろ書かなきゃ」といった、重たい気分を引きずりながら、時間を浪費してしまいます。
気がついたときには、準備するための時間も残されていない、「もはや書くだけの時間しかない」タイミングで、やっとパソコンに向かうのです。
私がそうでした。
そんな焦りと混乱のなかで、まともな文章が書けるはずがないのです。
苦手意識は「負のループ」をする!
「何を書いていいのかわからない」、「考えをどう文章化すればいいのかわからない」、「苦手意識が強くて書く気にならない」。
そんな状態で、パソコンや原稿用紙に向かっていたら当然、書くのに時間がかかります。
また無理やり書いても、考えがまとまらない状態で、行き当たりばったり書くため、必然的に読む人の心をつかめない、つまらない文章になってしまいます。
誰にも読まれない、評価されない。
それどころか、文章がつまらない、わかりにくいといわれる。
そうなると、二度と読み返すこともありませんから、どこが悪かったかを省みることもありません。
結果、ますます文章に対する苦手意識が強くなる、「負のループ」に陥ってしまいます。
でも実は、多くの人が書くことに、そうした苦手意識を持つのも、無理はないかもしれないのです。
私たちに先天的な「書く」能力はない!
なぜなら、人類の脳には遺伝的に、読み書きに特化した神経構造がないからです。
人類は何十万年もかけて、現代のオフィスとは、まったく異なる環境で進化してきました。
その長い歴史のなかで「文章を書く」ようになったのは、およそ5千年前に過ぎません。
一方、人類は「話す」能力を、それよりずっと前に進化させていました。ですから書くことに比べて、話すことは、さほど苦労しません。
脳には、話し言葉を認知して、言葉を話す構造は存在しますが、読み書きを行う神経構造がない。
だからこそ私たち現代人は、苦労してでも「読み書き」を学び、後天的に身につけなければならない宿命を背負っているのです。
いわれてみれば戦前には、教育を受けていないため、読み書きのできない「無筆」と呼ばれる人がいて、落語の題材にもなっていました。
文章を書く行為は、そもそも自ら学んで、身に付けようとしない限り、苦手意識を払拭できず、思ったように書けないものなのです。
考えてから書けば早く書ける!
文章に苦手意識を持つ人に、共通することがあります。
それは「文章を作ること=書くこと」だと思っていることです。私自身がそうでした。
しかし、料理に・・・・・・
*材料の買い出し
*レシピの確認
*下ごしらえ
*調理
*盛り付け
~といったステップがあるように、文章を作るにも、実は「材料集め」「材料の整理」「流れの確認」「見直す作業」といった、極めて重要なステップが「書くこと」以外にもあるのです。
書く作業は、料理で言えば「調理」の段階にあたるでしょう。つまり全体の一部でしかありません。
その「書くこと」以外のステップを無視して、いきなりキーボードを打ち始めてしまうから、かえって時間がかかってしまうのです。
大学生4千人以上を調査した、九州大学准教授、渡辺哲治氏の著書『「書くのが苦手」をみきわめる』(学術出版会)に、興味深いデータが載っていました。
渡辺准教授の調査によると、「書くのが苦手」だと、自分で思っている学生ほど、「苦手だとは思わない」学生に比べて、事前に考える時間が短く、書き始めから書き終えるまでの時間が長かったそうです。
書くのが苦手だと思っている人ほど、考える時間が短く、書く作業に多くの時間を費やしてしまいます。割合で言うと「1:8:1」くらいでしょうか。なかにはまったく見直さない、ツワモノもいるといいます。
一方、書くことに苦手意識を持っていない人ほど、考える時間を大切にしています。割合で言えば「4:4:2」くらいです。
また早く書くことが得意な人は「見直す」作業にも時間を割いています。
いかがでしょう。
「つまり、「書くのが苦手だと思っている」人が、執筆に9時間あてているとしたら、「書くことに苦手意識を持っていない」人は、3時間ほどしかあてていないのです。
「考える時間」や「見直す時間」を合わせたとしても、いきなり書くよりも、トータルの時間はかなり短縮されるはずです。
文章を素早く書くための、たったひとつのコツ。それは「しっかり考えてから書き始める」ことです。
書きながら考えるから迷ったり、つまずいたりするのです。
「何を書くべきか」「どう書くべきか」「どんな順番で書くか」などをあらかじめ考えておけば、迷うことがありません。
内容や組み立てまでを考えた上で書くのですから、結果的に、人の心をつかみ、興味深く読んでもらえる文章になるのは、当然のことなのです。
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