なぜか好評なコラムを転載します。

5月に発売した『インクルージョン思考』をお読みいただいた方から

「あれってそうだよね」と共感していただくことが多い、

本の中のコラムがありましたので、こちらに転載いたします。

コラム「なぜフジテレビの視聴率は低迷したのか?」

これは余談でしょうが、よく聞かれる質問があります。

「かつて飛ぶ鳥を落とす勢いだったフジテレビの視聴率が、なぜ低迷してしまったと思いますか?」と尋ねられるのです。

さまざまな原因分析論を聞きます。

たとえば「地上波のデジタル化にともない、10チャンネルだったテレビ朝日が5に、12チャンネルだったテレビ東京が7になったため、かつては新聞でテレビ欄のど真ん中に載っていた8チャンネルが、端っこに追いやられてしまったからだ」などの声を耳にしたこともあります。

しかし、決定的な理由を聞いたことはありません。四半世紀、フジテレビで仕事をさせていただいてきた私にも、正直その理由はよくわかりません。なぜならスタッフは皆、汗を流して頑張っているからです。

ただ「集めた情報を整理してはいけない」の項目で「混沌=カオスからインクルーシブなアイデアは生まれてくる」という原稿を書いていて、感じたことがひとつだけあります。

もともとフジテレビの社屋があったのは、新宿区河田町という、都会と下町が渾然一体となった雑多な街でした。四半世紀近く、NHK総合テレビが連続して視聴率1位だったのに、それを覆して、民法としては史上初めて、単独で全日視聴率制覇を果たしたのも河田町時代です。

しかしフジテレビは1996年、埋立地の人工的で整然とした環境のお台場に社屋を移しました。もしかしたらそのことが原因で、パワーを失っていったのではないか考えたのです。

つまり、周囲の環境にカオスの要素がなくなったことが、パワフルな番組のためのアイデアの芽を摘んでいるのではないか……と思ったのです。

実際のところ、お台場には路地裏に、モツ煮の美味しい、縄のれんの居酒屋もなければ、老夫婦が長年やっている、鯖の味噌煮が美味しい定食屋さんもありません。

去年、大手オモチャメーカーに声をかけていただき、講演にうかがいましたが、その本社があるのは、東京葛飾区の立石という街でした。

京成立石駅前は、戦後の闇市から発展してきただけあって、千円でベロベロに酔うことができる「センベロ」と呼ばれる立ち飲み屋さんなどがひしめき合い、独特のノスタルジーを醸し出しています。まさにカオスの街でした。

そのおもちゃメーカーは、ユニークなアイデアのオモチャをつくり続けていますが、アイデアは、京成立石駅前のような混沌が日常にある場所で生まれるのかもしれません。

この際、フジテレビはお台場を離れ、赤羽(あかばね)あたりに移転してみてはどうでしょう。カオスな環境の中で、インクルージョン思考が活性化して、復活するかもしれません。

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