放送作家の文章術㉓見直し=推敲で文章は決まる!

放送作家の文章術㉓見直し=推敲で文章は決まる!

6割の出来で良いと考えて、一気に書き上げた文章は、見直し=推敲してから提出します。

 推敲とは、「詩や文章を作るにあたって、その字句や表現を練り直したりすること」です。

 どんなに素晴らしい内容を伝えていても、誤字脱字や「何を言いたいのか、わからない」意味不明の文章があると、読者は一気に冷めてしまいます。

 そこで時間をかけて、推敲するわけです。その際には次の2点に注意して行ってください。

必ずプリントアウトする

 私の場合、必ず紙に印刷してから、赤ペンを持って推敲を始めます。「紙代やインク代がもったいないから、モニター上でチェックすればいい」と思う人もいるかもしれません。しかし、印刷したほうが間違いに気づきやすいのです。

 これはアナログ世代の私だけでなく、若い編集者や印刷デザイナーも「モニターだとなぜか間違いに気づかない」と口を揃えていいます。

それを裏付けるデータもあります。

凸版印刷の子会社、トッパン・フォームズ株式会社が、同じ情報を紙で読む場合と、ディスプレイで読む場合の脳の働きを調査してしたところ、紙媒体の方が脳内の情報を理解しようとする前頭前皮質の反応が強かったそうです。

つまり、ディスプレイよりも紙媒体の方が、情報を理解させるのに優れているのです。やはり紙にプリントアウトしてから、チェックしましょう。

時間をおいてから推敲する

 書き終えた直後はまだ、自分で書いた文章を、客観的な読者の目で見ることができません。

 ですから、ほかの仕事に打ち込んだりして、頭をリセットしたうえで読み返すことが大切です。お気に入りの小説家のミステリーを読んでもいいですし、他の書き物に取り組んでも構いませんし、遊びに行ってもいいです。

もちろん完全に忘れることはできません。しかし、できるだけ客観的に、自分が書いた文章にあらためて向き合うことが大切です。

 最低でも一日、余裕があれば一週間くらい原稿のことを忘れる時間を持ちたいものです。

 そうして初めて読む読者のような感覚で読み返せば、説明不足の部分や、逆に説明がくどい部分などに、気づくことができます。

また書き終えた直後は、「この部分はこういう内容」と頭に文章が残っていて先がわかるので、つい飛ばしながら読んでしまうため、誤字脱字があっても気が付かない場合が多々あります。

 リフレッシュして、読者と同じく客観的に読み直しましょう。

推敲は3パターンの読者を想定して行う

 「誤字脱字」はもちろん、「文法的な誤り」に「ちぐはぐな構成」などなど、文章を見直すポイントは多岐に渡ります。

とはいえ、人間一度にあれもこれも、チェックできるものではありません。

ですから推敲の時は、「タイプの異なる3人の読者」になりきって最低でも3回行ってください。

 3人の読者とは、以下のような人々です。

一人目…粗探し大好き、意地悪タイプ

一人目…流れや内容を重視するタイプ

三人目…文法に詳しい国語の先生タイプ

この3人になりきる前には、書いた文章のことをいったん忘れてしまって、他のことに集中してください。

 そうすれば、「他人の目」で文章を見直しやすくなります。

一人目「粗探し大好き、意地悪タイプ」によるチェック

 まずは「文章の内容よりも、粗探しが大好き!」なキャラクターになって、どこかに間違いはないか、意地悪な目線でチェックしましょう。

☑誤字脱字はないか?

 誤字脱字は、私たち書き手が思っている以上に、読者をがっかりさせてしまいます。最初にチェックしておきましょう。

ワープロソフトには、誤字脱字のチェック機能がありますので、まずはそれを確認します。

 たとえばWordの場合、赤色の波線で日本語では入力ミスの可能性、英語ではスペルミスを示してくれます。

緑色の波線は、文法の誤りの可能性や、語句の不統一を示しています。まずはディスプレイ上で、赤や緑の波線が表示されている部分を詳しくみてみましょう。

「まず最初に」「最後の追い込み」といった、つい書いてしまいがちな「重ね言葉」も指摘してくれます。ただ私の使っているワード2010では「あとで後悔」「各国ごとに」といった明らかな重ね言葉に波線は出ません。かならず、プリントアウトしてチェックしましょう。

 脱字のチェックには、無料で使える「音声読み上げソフト」も力を発揮します。今回、私も試しました。人口音声は独特のイントネーションが玉に瑕ですが、音声を聞きながら文字を目で追っていると、確実に誤字脱字に気づきます。

 また音声がペースメーカーとなってくれるので、途中で中断することなく、一定のペースで推敲ができるのもメリットです。

☑「という」を多用していないか?

 無意識につい、使ってしまうのが「~という」という言葉です。

「リンゴというのは、赤いものだ」は「りんごは赤い」、「猫というのは、気まぐれだ」は「猫は気まぐれだ」としたほうが、すっきりします。

 この「~という」という言葉というのは、意識していないとかなりの頻度で登場するという曲者です。

などと書いてしまいます。この場合、「という」は、すべて切っても成立します。

インフレになると、お金の価値が下がります。同様に「~という」がインフレ状態になると、文章の価値が下がります。できる限りカットしましょう。

こうした頻繁に使いがちな言葉をチェックするのは、ワープロソフトの検索機能を使うのが便利です。

ワードならば右上に「検索」リボンがあります。

それをクリックすると、左端にナビゲーションウインドウが開き、文章のどこに「~という」が登場するか、すべて教えてくれます。

だらだら長い文は短くする

何行にもわたって続く長い文章は、読んでいて疲れます。話と同様に、言いたいこともわかりにくくなるので、伝えたいことが伝わりません。

 長い一文は、わけられるところで切りましょう。

 とくに「順接の〝が〟」を使うクセがある人の文章は長くなりがちです。

 接続詞〝が〟には、「内容が逆である文を接続する「逆説の〝が〟と、似ている内容の文をつなぐ「順接の〝が〟の2種類があります。

 逆接の「が」の例を見てみましょう。

今日はいい天気ですが、明日は雨でしょう

 逆説の場合、「が」の前と後で、逆のことを言っています。今日はいい天気です。しかし、明日は雨でしょう」のように分けた場合、「しかし」「ところが」「とはいえ」などの接続詞でつなぐことができるものです。

しかし、次のように「が」を使う人もいます。

今日はいい天気でしたが、明日も晴れるでしょう。

 このように前後で同じ意味のことを書いているにもかかわらず「が」でつなぐのが〝順接の「が」〟です。

順接で「が」を使うと、文章の流れを阻害します。

また読んでいる方は、「が」を見た時点で、ひっくり返ることを期待しますので、期待外れでてがっかりします。

長い文で、順接の「が」で文をつないでいくと、何をいいたいのか分からなくなります。たとえばこのような文です。

接続助詞の「が」に関してですが、これは「逆接」の意味で使われることが多いのですが、ほかにもいくつかの働きがありますが、最も多いのが……。

順接の「が」を使った文章のほとんどは、そこで切っても構わないはずです。一文を短くするためにも、推敲で見つけたら切ってしまいましょう。

二人目「流れや内容を重視するタイプ」のチェック

 流れや内容を重視するタイプのキャラクターになって行うのは、次のようなものです。

☑全体を通してテーマ(問い)に答えられているか?

 「テーマ」とは「問い」です。

 あなたが書きたいものは、「疑問形」にすることができますか?

☑自分が読者だったら興味を持てるテーマか?

 あなたが読者なら、そのテーマは読みたいものでしょうか?

 「自分はこれが書きたい!」といった独り善がりなテーマは誰も読んでくれません。

☑「何が言いたいのか」わかりにくいところはないか?

 読者になりきって読んでみたときに感じる「冗長でかったるい」「説明が足りなくて、よくわからない」部分はないでしょうか?

☑各ブロックがスムーズに流れているか?

 パラグラフとパラグラフの繋ぎに、違和感はないでしょうか?

 入れ替えたほうがスムーズにならないか、チェックしてみましょう。

書き出しが魅力的でつい読みたくなるものか?

 客観的に見て、その書き出しで「続きを読みたい」、あるいは「最後まで読んでみたい」と思うでしょうか?

☑書き出しから長い文章になっていないか?

 書き出しは必ず、短い一文で始めてください。

できれば一行以内にまとめるのが理想の形です。

☑文章にリズムはあるか?

 同じような長さの一文が続いてはいないでしょうか?

 また文末が「~です」×3、「〜である」×3といった同じ結びになっていませんか?

どんどん読み進みたくなるようなフックはあるか?

その一文を読んだら、また次の一文を読みたくなるような「フック」はかかっているでしょうか?

「たくさん」「大きな」といった曖昧言葉をつかっていないか?

人によって受け取り方が異なる「曖昧言葉」を使っていないでしょうか。数字で表した方が正確に伝わるものは、すべて数字に置き換えます。

カタカナ語・専門用語を説明もないまま使っていないか?

 「文章とは読者のもの」、想定読者がわざわざ意味を調べなければならないようなワードを、説明もなしに使ってはいませんか?

~などです。読者の立場になりきって、不満に感じる部分をチェックしましょう。

三人目「国語の先生タイプ」によるチェック

 さあいよいよ三人目、国語の先生タイプによるチェックです。

文法的なことはよくわからないといった人も、次の点に注意して読み直してください。

☑主語と述語が離れていないか?

主語は文の中で「何が・何は・だれが・だれは」にあたる言葉で、述語は「どうする・どうした」などの言葉です。この2つが離れていると、意味が通じにくい文になります。

長い一文を書いていると、しばしばやってしまいがちですので読み返して根絶やしにしてください。

たとえば―――

田中はむせてラーメンを食べている鈴木を笑った。

これでは主語である田中が「むせて」いるのか、鈴木が「むせてる」のか、読んでいる方が混乱します。

その原因が、主語と述語が離れてしまっていることです。

これを治すなら―――  

むせてラーメンを食べている鈴木を田中は笑った。

となります。

主語と述語、このふたつが近くにあると混乱が起きません。

☑主語と述語が「ねじれて」いないか?

主語・述語が「ねじれてしまっている」文章も、よく見かけます。たとえば……

 私の今年の目標は、ラーメンを100杯食べます。

この文の主語は「目標は」、述語は「(ラーメンを100杯)食べます」です。この文を縮めれば、「目標」は人ではないので、ラーメンを食べることはできません。

  つまり、この文は主語と述語が合っていないのです。こんなふうに、最初のほうと後のほうが合っていない文のことを、「ねじれ文」といいます。

  この場合であれば……

 私の今年の目標は、ラーメンを100杯食べることです。

と書けば、主語が「目標は」、述語が「(ラーメンを100杯)食べること」となりますから、ねじれが直りました。

 例に挙げたのは短い文ですから、すぐ間違いに気づきますが、長い文章では、なかなか気づかないこともあります。

 たとえば……

塩分が多い食物は、ラーメン、そば、うどんなどの麺類、塩辛、漬物、梅干しなどの塩蔵食品、調味料では味噌や醤油に多く含まれています。

これも主語「塩分が多い食物は」に対して、述語が「含まれています」ではねじれを起こしています。

 「塩分は~に多く含まれています」か、「塩分が多い食物は~です」の、どちらかでなければなりません。

 長い文章では見過ごしがちなので、推敲でチェックしましょう。

☑つたわりにくい読点の位置になっていないか?

文章における「、(読点)」の役割は、関係が近いものをまとめ、読み手に文章の構造をわかりやすく提示して、誤解が生じないようにすることです。

 古典落語の『日和違い』にも「、(読点)」で誤解する話があります。

今日は、雨が降る天気ではない(=晴れ)。

と、教えられたと勘違いし、傘を持たず出かけた男が雨に降られ、ずぶ濡れになる噺です。

これも文章にして

今日は雨が降る、天気ではない(=雨)。

このように読点で区切れば、誤解が生じることはありません。

 ほかにも句読点の打ち方には、息継ぎのタイミングなど、諸説あります。ですが「誤解を避けるために、句読点を打つこと」がもっとも大切です。

☑否定語や「二重否定」はないか?

 続いての悪い例は、この文章です。

決して、できないわけではないが、成立しない場合が少なくない。

「少なくない」、「行けないわけではない」、などと否定形にしてしまうと字数が多くなるだけでなく、意味も伝わりにくくなります。

こうした否定形も逃げの言葉の一つ。

「少なくない」なら「多い」、「行けないわけではない」なら「行く」と言い切りましょう。

 最悪なのは、網掛けがしてある「できないわけではない」「しない場合がすくなくない」の部分。このような言い回しを「二重否定」といいます。

「できないわけではない」は、イコール「できる」です。

ビジネスシーンで二重否定のような曖昧な表現を使うと、誤解や齟齬を生み出す原因となります。

☑「の」が続いていないか?

文章を書いていて何度も、助詞に「~の」が続き、「いくらなんでも〝~の〟が続きすぎだ。どうしよう!」と困ったことはありませんか?

満開の桜の木の下の犬の尻尾は~

 このように「~の」が何度も続いていているのを発見したら、すぐにほかの言葉に置き換えましょう。

 置き換える場合、「場所」であれば「~に」「~にある」。

「対象」に関することであれば「~について」「~に関する」。

所有物であれば「~が持っている」「~が所有する」に置き換えましょう。

先ほどの文ならば、たとえば―――

満開となった桜の下に犬がいる。その尻尾は~

「~の」は省略できる場合も多いので、まず省くことを考えて、省けない場合にほかの言葉に置き換えてください。

最後に音読で推敲してみよう

多くの人が「黙読」で推敲していますが、効率が良いのは「声に出して読んでみる」、いわゆる「音読推敲」です。

読みやすい文章は、リズムのある文章です。リズムは耳で感じるのが一番ですから、プロの文筆家の多くが「音読推敲」を行っています。

いちいち声に出して読むのは、面倒なようにも思えます。

ですが急がば回れ。読んでいて、もしつかえるような部分があれば、そこには必ず問題がひそんでいるのです。

なぜつかえたのか、じっくり読み返して考えてみましょう。

文字を目で追いながら声に出して読むと、誤字や脱字を見つけやすくなる効果もあります。

自分の声が聴覚にフィードバックされるため、耳で聴く情報と目で見る情報の違いにも気づきやすいのです。

読み上げていると、全体の流れがスムーズかどうか、余計な部分がないかどうかといったこともチェックできます。

音読するのは手間がかかるように思いますが、何度も黙読して推敲するより、はるかに効率的に推敲できるのです。

完璧な絶望がないように完璧な文章はない

 もう一度、村上春樹さんのデビュー作『風の歌を聴け』(講談社文庫)の冒頭の言葉を思い出してください。

 「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」

 どんなに推敲を重ねたとしても、100%完璧な文章にはなりません。そもそも言葉自体が、不完全なものだからです。その言葉を並べて作る文章が、完璧なものになることはないのです。

ただし、あなたは何度も推敲を重ねて、当初よりもはるかに良くなった、完全なものに近い文章を作り上げています。

できれば締め切りの2日前には作業を終えましょう。そうして一日、寝かせておいて提出する前に冷静な目で、もう一度だけ見直してください。ベストを尽くしてやるべきことをやれば、文章は完成です。